大判例

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最高裁判所第三小法廷 平成8年(行ツ)116号 判決

兵庫県姫路市辻井一丁目三番三三号

上告人

竹中正

同姫路市御国野町国分寺五三四番地

上告人

竹中冨久子

岡山市福泊一六八番地の八

上告人

河合英子

神戸市東灘区深江本町二―五―一〇

上告人

長谷川八重子

兵庫県姫路市町の坪三九九番地の六

上告人

竹中英樹

名古屋市昭和区山里町一六〇番地

上告人

玉田正子

岡山市新京橋一丁目七番一五号

上告人

竹中武

右七名訴訟代理人弁護士

中村勉

兵庫県姫路市北条字中道二五〇番地

被上告人

姫路税務署長 滝野祐滋

右指定代理人

山崎秀義

右当事者間の大阪高等裁判所平成七年(行コ)第一二号所得税決定及び重加算税の賦課決定処分取消、相続税更正処分及び無申告加算税等賦課決定処分取消請求事件について、同裁判所が平成八年一月三〇日に言い渡した判決に対し、上告人らから上告があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人中村勉の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決拳示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、違憲をいう点を含め、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 金谷利廣 裁判官 園部逸夫 裁判官 千種秀夫 裁判官 尾崎行信 裁判官 元原利文)

(平成八年(行ツ)第一一六号 上告人 竹中正 外六名)

上告代理人中村勉の上告理由

原判決は「被控訴人の正久に対する本件甲処分及び控訴人らに対する本件乙処分のいずれも適法であり控訴人正及び控訴人らの本訴各請求はいずれも理由がない」として控訴を棄却しているが原判決には次のとおり判決に影響を及ぼすことが明らかな重要事項について理由に齟齬がありまた適怯の解釈に誤りがあって原判決は違法であり破棄されるべきである。

以下その理由を陳述する。

第一

一、細田利明及び加茂田重政に対する貸付金について第一審判決は

「竹中正久は服役中の昭和五三年七月十九日刑務所に面会に来た竹中武との間で『加茂田と細田に金を貸してあるから催促してほしい』旨述べている事実が認められる。この当時は本件の税務調査が予想されない時期でかつ服役者と面会者との間にごく自然な会話として交わされたものであるからその信用性は高いと云わなければならずこれに加茂田・細田は竹中組の上部団体である山口組の之若頭補佐の地位にあったからほぼ正久と同等かかつてはそれ以上の地位にあった人物と推測されることからすれば昭和五三年七月当時正久が右両名に対し貸付金を有していた可能性を一概に否定できない」

としながら

「正久の細田・加茂田に対する貸付金は無利息無担保でなされたというものであるから若し貸付の事実があったとしてもそれが互に勢力を誇示するに足りる山口組の最高幹部同士の貸借であってみれば、一時しのぎの貸借は別にしてそれなりの必要性があってのものと考えるのが自然であるが、細田・加茂田の借入動機は自らの必要に基くものではなく第三者からの必ずしも明確でない借金の申入れに広ずるためであったと云うのであってこのような供述は到底信用できない」

「細田・加茂田に対する貸付金は無利息・無担保であるから互いに勢力を誇示する山口組の最高幹部同士の貸借なのでそれなりの必要性があってのものと考えるのが自然であるが両名の借入動機は自らの必要に基くものではなく第三者からの使途の必ずしも明確でない借金の申入れに応ずるためのものでこのような供述は信用できない」としている。

二、ところで細田利明は

「友人で不動産を触っとる藤本昭より金が一寸足らんので一、五〇〇万円程貸してくれと云われたが当時手元には二〇〇万円しかなかったし、また竹中から、人の金、気遣いもあってそんな何するなと云われていたし藤本の名前は出さずに竹中に電話を入れて兄弟ちょっと会社の運転資金がどうしても千二、三百万円足らんので融通してくれへんかと云って一、三〇〇万円借りた。その金は竹中の弟武が神戸刑務所に面会に行った帰り請求され昭和五五年三月二八日まで竹中に返した」

加茂田重政は

「昭和五一年当時加茂田組の若い者頭をしていた山下実が賭博で負けたためと思うが『親分困っとるから金を一、五〇〇円程貸してくれ、金がなかったらへた打ってしまう』と云われて竹中に電話を入れて借りた。昭和五四年竹中が服役中に細田より『金が要るから貰うといてくれ云いよるぞ』という電話連絡があり最初四〇〇万円返して昭和五五年に五〇〇万円と六〇〇万円の二回に分けて竹中に返した」

とそれぞれ供述している。

三、前記のように判決理由の冒頭で「竹中が服役中の昭和五三年七月十九日竹中武に面会の際『細田と加茂田に金を貸してあるので催促してくれ』と云った」事実を認めながらその後半におりて右細田と加茂田の供述の信用性を否定し貸付金の存在を否定していることは判決の理由に齟齬があるか理由不備の違法がありこれを看過した

原判決は破棄されるべきである。

第二、

一、一審判決は前記貸付金を含む一審判決別表6貸付金の対比表の下西康雄、嵐義明、小山秀夫、青木広海、吉田勇、寺田晴美、大沢国博らに対する貸付金についても

「借主とされる大西外八名の前記証言内容を仔細に検討すればそのおいずれもが昭和四八年ころから同五二年二月ころまでに借入れした古い貸借であるというのに借用証は存在せずその大部分が全員の交付について立会人もない正久との二人だけのやりとりで利息の定めや担保、保証人もなりものであって金銭貸借の態様が巻間なされている貸借の実態とかけ離れていることは否定すべくもない」

として貸付金の存在を否定し

二、積立金についても

「組員が毎月会費を負担するほか任意に組員の毎月の経済状況に応じて拠出する積立金というものを観念することは困難である。けだし積立金を拠出する回数、拠出金額は組員の地位に拘まらずつたく任意に委ねられているというものであることがおよそ組織維持のための資金がそのような任意拠出制度に裏打ちされること自体不自然である」

としてその存在を否定し

三、竹中武の一億円についても

「士して大きな収入があるとも考えられない牧野が仮に当時八、〇〇〇万円程度の県会議員選挙の選挙資金をタンス預金として蓄えていたとしてもその過大な資金を一面識もなかった竹中武のさして使途の明確でない資金として用立て(昭和五〇年貸付金)昭和五〇年貸付金についての大まかな返済期日を経過しても返済がないのにさらに昭和五一年貸付金をし、しかも両者いずれの貸付も無利息、無担保で借用書の保管や切り替えさへ他人(笹部)に委ね、結局その返済がないまま今日に至っているのは常識に照らして不自然不合理で男同士の約束をいかに強調したとしても到底信用できるものではない」

「前記各供述は正久の刑事公判対策として口裏を合わせた虚偽の供述とさへ云える」

としてこれを否定し原判決もこれに容認している。

四、しかしながら、原判決ひいては第一審判決の事実認定は明らかに世間一般の常識を基準としすべての事柄をこの基準によって律し、所謂世間の裏街道を歩むと云われる組関係者の世界の有り様を理解しようとしないものである。

組関係者は事の善悪は別として仁侠男伊達男の世界として一般社会生活とは異る閉鎖的な社会を構築し特殊の倫理感価値観を有しているのもであることは吾人の常識であると云わなければならない。

このような組員の世界においては金銭の貸借においても借用証も出せず、利息の定めもなく保証人等の担保も出さないことが通常であり返済等を怠ることがあった場合には直ちに組関より指揮され斯種世界より追放されるものであり若しそのような制裁をうければ生活の根底から破壊されるものであることからしても組関係者としての内部の規範は守られており一般通常人間の借用証を作成したり保証人等の担保を出した場合よりもっとうまく機能しているものである。

五、これを一般社会人、特に良識のある人や貸金業者が行っているような借用証を出し、利息、返済期人的物的担保を要求するのが当然であるという前提をおいてこれと異る方法をとる貸借についてこれをすべて否定し去るについてはさらに納得できる理由を附さなければならない。

また竹中正久の刑事公判対策として口裏を合わせたとする点についても本件所得税法違反で逮捕されたのは竹中武が昭和五七年八月二五日、竹中正久が同月二六日であり所得税法違反が組関係者に適用されて検挙されたのは竹中組が始めてであるところ竹中ら組関係者として一般刑法犯の単純な事件についてはそれまでの体験上口裏を合わせることも或程度可能ではあるが本件は関係者が全く予想もしていなかった。かりに予測できたとしても所得税法違反がどのような犯罪であるか全く知識がなかったものでありしかも組員の資質(殆ど社会の落ちこぼれ)からして口裏を合わせるなど到底不可能なことと云わなければならない。

六、この点において何ら理由も附さず前記のことと相まって独断と偏見に充ちたものでありこのことはひいて組員を一般人と差別するものであって憲法第一四条の法の下の平等にも違反する。

以上

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